》の隠沼《こもりぬ》にて、
あこがれ歌ふよ。――『その昔《かみ》、よろこび、そは
朝明《あさあけ》、光の揺籃《ゆりご》に星と眠り、
悲しみ、汝《なれ》こそとこしへ此処《ここ》に朽《く》ちて、
我が喰《は》み啣《ふく》める泥土《ひづち》と融《と》け沈みぬ。』――
愛の羽寄り添ひ、青瞳《せいどう》うるむ見れば、
築地《ついぢ》の草床、涙を我も垂《た》れつ。

仰《あふ》げば、夕空さびしき星めざめて、
しぬびの光よ、彩《あや》なき夢《ゆめ》の如《ごと》く、
ほそ糸ほのかに水底《みぞこ》に鎖《くさり》ひける。
哀歓かたみの輪廻《めぐり》は猶《なほ》も堪へめ、
泥土《ひづち》に似る身ぞ。ああさは我が隠沼、
かなしみ喰《は》み去る鳥さへえこそ来めや。


  マカロフ提督追悼の詩

(明治三十七年四月十三日、我が東郷大提督の艦隊大挙して旅順港口に迫るや、敵将マカロフ提督之《これ》を迎撃せむとし、倉皇令《さうくわうれい》を下して其旗艦ペトロパフロスクを港外に進めしが、武運や拙《つた》なかりけむ、我が沈設水雷に触れて、巨艦一爆、提督も亦《また》艦と運命を共にしぬ。)

嵐よ黙《もだ》せ、暗《やみ》打つ
前へ 次へ
全31ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング