く。前下りに結んだ三尺がだらしなく、衣服《きもの》の袵《まへ》が披《はだか》つて、毛深い素脛《からツつね》が遠慮もなく現はれる。戸口に凭れてゐる娘共には勿論の事、逢ふ人毎に此方から言葉をかける。茫然《ぼんやり》立つてゐる小児でもあれば、背後《うしろ》から窃《そつ》と行つて、目隠しをしたり、唐突《いきなり》抱上げて喫驚《びつくり》さしたりして、快ささうに笑つて行く。千日紅の花でも後手に持つた、腰曲りの老媼《ばばあ》でも来ると、
『婆さんは今日もお寺詣りか?』
『あいさ。暑い事《こつ》たなす。』
『暑いとも、暑いとも。恁※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《こんな》日にお前《めえ》みたいな垢臭い婆さんが行くと、如来様も昼寝が出来ねえで五月蠅《うるさ》がるだあ。』
『エツヘヘ。源作さあ何日《いつ》でも気楽で可《え》えでヤなあ。』
『俺讃めるな婆さん一人だ。死んだら極楽さ伴《つ》れてつてやるべえ。』と言つた調子。
酔つた時でも別段の変りはない。死んだ祖父に当る人によく似たと、母が時々言つたが、底無しの漏斗《じやうご》、一升二升では呼気《いき》が少し臭
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