第4水準2−94−57]時は、何処から持つてくるものやら、鶏とか、雉子とか、鴨とか、珍らしい物を持つて来て、手づから料理して父と一緒に飲む。或年の冬、ちらちらと雪の降る日であつたが、叔父は例の如く三四日見えずにゐて、大きい雁を一羽重さうに背負つて来た事がある。父も私も台所の入口に出てみると、叔父は其雁を上框《あがりがまち》の板の上に下して、
『今朝隣村の鍛冶の忰の奴ア、これ二羽撃つて来たで、重《おも》がつけども一羽背負つて来たのせえ。』
と母に言つて、額の汗を拭いてゐた。
『大ぎな雁だ喃《なあ》。』
と父は驚いて、鳥の首を握つて持上げてみた。私の背の二倍程もある。怖る/\触つて見ると、毛が雪に濡れてゐるので、気味悪く冷たかつた。横腹《よこつぱら》のあたりに、一寸四方許り血が附いてゐたので、私は吃驚《びつくり》して手を引いた。鉄砲弾《てつぽうだま》の痕だと叔父は説明して、
『此方《こつち》にもある。これ。』と反対の脇の羽の下を見せると、成程|其所《そこ》にも血があつた。
『五匁弾だもの。恁《か》う貫通《ぶつとほ》されでヤ人だつて直ぐ死んで了ふせえ。』
人だつて死ぬと聞いて、私は妙な身顫
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