中を手探り足探りに、己《おの》が臥床《ふしど》を見つけて潜《もぐ》り込むのだつたさうな。時としては何処かに泊つて家へは帰らぬ事もあつたと記憶《おぼ》えてゐる。そして、日がな一日、塵程の屈托が無い様に、陽気に物を言ひ、元気に笑つて、誰に憚る事もなく、酒を呑んで、喧嘩をして、勝つて、手当り次第に女を弄んで、平然《けろり》としてゐた。叔父は、叔母や従同胞共《いとこども》を愛してゐたとは思はれぬ。叔母や従同胞《いとこ》共も亦、叔父を愛してはゐなかつた様である。さればといつて、家にゐる時の叔父は、矢張|平然《けろり》としたもので、別段苦い顔をしてるでもなかつた。
四
時として、叔父は三日も四日も、或は七日も八日も続いて、些《ちつ》とも姿を見せぬ事があつた。其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《そんな》事が、収穫《とりいれ》後から冬へかけて殊に多かつた様である。
飄然《ふらり》と帰つて来ると、屹度私に五十銭銀貨を一枚宛呉れたものである。叔父は私を愛してゐた。
加之《のみならず》、其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、
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