承不承に三分か五分、遊ぶ真似をして直ぐ遁《に》げて帰つたものだ。
私の母は、何時でも「那※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《あんな》無精な女もないもんだ。」と叔母を悪く言ひながら、それでも猶何に彼《か》につけて世話する事を、怠らなかつた。或時は父に秘《かく》してまでも実家《さと》の窮状を援けた。
時としては、従同胞《いとこ》共が私の家へ遊びに来る。来るといつても、先づ門口へ来て一寸々々《ちよいちよい》内を覗きながら彷徨《うろうろ》してゐるので、母に声を懸けられて初めて入つて来る。其都度、私は左右《かにかく》と故障を拵へて一緒に遊ぶまいとする。母は憐愍《あはれみ》の色と悲哀《かなしみ》の影を眼一杯に湛へて、当惑気に私共の顔を等分に瞰下《みおろ》すのであつたが、結局矢張私の自由《わがまま》が徹《とほ》つたものである。
叔父は滅多に家に居なかつた。飲酒家《さけのみ》の癖で朝は早起であつたが、朝飯が済んでから一時間と家にゐる事はない。夜は遅くなつてから酔つて帰る。叔母や従同胞等《いとこら》は日が暮れて間もなく寝て了ふのだから、酔つた叔父は暗闇の
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