のお政は私より二歳《ふたつ》年長《としうへ》、三番目一人を除いては皆女で、末ツ児は猶《まだ》乳《ち》を飲んでゐた。乳飲児を抱へて、大きい乳房を二つとも披《はだ》けて、叔母が居睡《ゐねむり》してる態を、私はよく見たものである。
五人の従同胞《いとこ》の中の唯一人の男児は、名を巡吉といつて、私より年少《としした》、顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》に火傷の痕の大きい禿のある児であつたが、村の駐在所にゐた木下といふ巡査の種だとかいふので、叔父は故意《わざ》と巡吉と命名《なづ》けたのださうな。其巡吉は勿論、何《ど》の児も何の児も汚ない扮装《みなり》をしてゐて、頸《くび》から手足から垢だらけ。私が行くと、毛虫の様な頭を振立てゝ、接踵《ぞろぞろ》出て来て、何れも母親に肖《に》た大きい眼で、無作法に私を見ながら、鼻を顰《しか》めて笑ふ奴もあれば、「何物《なに》持つて来たべ?」と問ふ奴もある。お政だけは笑ひもせず物も言はなかつた。私は小児心にも、何だか自分の威厳を蹂躙《ふみつけ》られる様な気がして、不快で不快で耐《たま》らなかつた。若しかして叔母に、遊んで行けとでも言はれると、不
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