《やや》肖《に》てゐた位のものである。背の※[#「女+亭」、第3水準1−15−85]乎《すらり》とした、髪は少し赤かつたが、若い時は十人並には見えたらうと思はれる容貌《かほかたち》。其頃もう小皺が額に寄つてゐて、持病の胃弱の所為《せゐ》か、膚《はだ》は全然《まるで》光沢《つや》がなかつた。繁忙《いそがし》続きの揚句は、屹度一日枕についたものである。愚痴《ぐちツ》ぽくて、内気で、苦労性で、何事も無い日でも心から笑ふといふ事は全たくなかつた。わけても源作叔父の事に就いては、始終《しよつちゆう》心を痛めてゐたもので、酔はぬ顔を見る度、何日《いつ》でも同じ様な繰事《くりごと》を列《なら》べては、フフンと叔父に鼻先であしらはれてゐた。見す見す実家《さと》の零落して行くのを、奈何《いかん》ともする事の出来ない母の心になつて見たら、叔父の道楽が甚※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《どんな》に辛く悲く思はれたか知れない。
 恁※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《こんな》両親の間に生れた、最初の二人は二人とも育たずに
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