やないか。別れよう。潔《いさぎよ》く元氣よく別れよう。ネ、石本君。」と云ひますから、「僕だつて男です、潔くお別れします。然し何も、生別死別を兼ぬる譯では無いでせう。人生は成程暗い坑道ですけれど、往來皆此路《わうらいみなこのみち》、君と再び逢ふ期がないとは信じられません。逢ひます、屹度再び逢ひます、僕は君の外に頼みに思ふ人もありませんし、屹度再た何處かで逢ひます。」と云ひますと、「人生はさう都合よくは出來て居らんぞ。……然し何も、君が死にに行くといふではなし、また、また、僕だつて未だ死にはせん……決して死にはせんのだから、さうだ、再逢の期が遂に無いとは云はん。ただ、それを頼りに思つて居ると失望する事がないとも限らない。詰らぬ事を頼りにするな。又、人生の雄々しき戰士が、人を頼りにするとは弱い話だ。……僕は此八戸に來てから、君を得て初めて一道の慰藉と幸福を感じて居た。僅か半歳の間、※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々《そう/\》たる貧裡半歳《ひんりはんさい》の間とは云へ、僕が君によつて感じ得た幸福は、長《とこし》なへに我等二人を親友とするであらう。僕が心を決して遠い處へ行かんとする時
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