に到頭決心したんです。貧乏の位厚顏な奴はありませんネ。此決心も、僕がしたんでなくて、貧乏がさせたんですネ。それでマア決心した以上は一刻の猶豫もなりませんし、國へは直ぐさう云つて手紙を出しました。それから、九時に學校へ行つて、退校願を出したり、友人へ告別したりして。尤も告別する樣な友人は二人しかありませんでしたが、……所が校長の云ふには、「君は慥《たし》か苦學して居る筈だつたが、國へ歸るに旅費などはあるのかナ。」と、斯ういふんです。僕は、乞食して行く積りだつて、さう答へた所が、「ソンナ無謀な破廉恥な事はせん方が可いだらう。」と云ひました。それではどうしたら可《いゝ》でせうと問ひますと、「マア能く考へて見て、何とかしたら可ぢやないか。」と拔かしやがるんです。癪に觸りましたネ。それから、歸りに菓子屋へ行つて其話をして、新聞社の方も斷つて、古道具屋を連れて來ました。前に申上げたやうな品物に、小倉の校服の上衣だの、硯だのを加へて、値踏《ねぶ》みをさせますと、四十錢の上は一文も出せないといふんです。此方《こつち》の困つてるのに見込んだのですネ。漸やくの次第で四十五錢にして貰つて、賣つて了つたが、殘
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