コビン黨の内でも最も急進的な、謂はば爆彈派の首領である。多分二階に人を避けて、今日課外を休まされた復讐の祕密會議でも開いたのであらう。あの元氣で見ると、既に成算胸にあるらしい。願くば復《また》以前の樣に、深夜宿直室へ礫の雨を注ぐ樣な亂暴はしてくれねばよいが。
 一隊の健兒は、春の曉の鐘の樣な冴え/″\した聲を張り上げて歌ひつゞけ乍ら、勇ましい歩調《あしどり》で、先づ廣い控處の中央に大きい圓を描いた。と見ると、今度は我が職員室を目蒐けて堂々と練《ね》つて來るのである。
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「自主《じしゆ》」の劍《つるぎ》を右手《めて》に持ち、
左手《ゆんで》に翳《かざ》す「愛」の旗、
「自由」の駒に跨がりて
進む理想の路すがら、
今宵|生命《いのち》の森の蔭
水のほとりに宿かりぬ。

そびゆる山は英傑の
跡を弔ふ墓標《はかじるし》、
音なき河は千載に
香る名をこそ流すらむ。
此處は何處と我問へば、
汝《な》が故郷と月答ふ。

勇める駒の嘶《いなな》くと
思へば夢はふと覺めぬ。
白羽の甲《かぶと》銀の楯
皆消えはてぬ、さはあれど
ここに消えざる身ぞ一人
理想の路に佇みぬ。

雪をいただ
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