披瀝《ひれき》した所が、さうでせう。』
これには返事が無い。
『其細目といふ矢釜敷《やかましい》お爺さんに、代用教員は教壇以外にて一切生徒に教ふべからず、といふ事か、さもなくんば、學校以外で生徒を教へる事の細目とかいふものが、ありますか。』
『細目にそんな馬鹿な事があるものか。』と校長は怒つた。
『それなら安心です。』
『何が安心だ。』
『だつて、さうでせう。先刻詳しくお話した通り、私があの歌を教へたのは、二三日前、乃ちあれの出來上つた日の夜に、私の宅に遊びに來た生徒只の三人だけなのですから、何も私が細目のお爺さんにお目玉を頂戴する筈はないでせう。若しあの歌に、何か危險な思想でも入れてあるとか、又は生徒の口にすべからざる語でもあるなら格別ですが、……。イヤ餘程心配しましたが、これで青天白日|漸々《やう/\》無罪に成りました。』
全勝の花冠は我が頭上に在焉《あり》。敵は見ン事鐵嶺以北に退却した。劍折れ、馬斃れ、彈丸盡きて、戰の續けられる道理は昔からないのだ。
『私も昨日、あれを書いたのを榮さん(生徒の名)から借りて寫したんですよ。私なんぞは何も解りませんけれども、大層もう結構なお作だ
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