んだり、阿諛を使はなんだりするのは、そんな事する才能がないからなんぢや。所謂見かけ倒しといふ奴ちやな。そいから第二はぢや。此奴は始末に了へん。一言にして言ふと謀反人ぢやな。何か知ら身分不相應な大望をもつとる。さうして常に形勢を窺うとる。僕の郷里の中學に體操教師があつてな、其奴が體操教師の癖に、後になつて解つたが、校長の椅子を覘つとつたんぢや。嘘のやうぢやが嘘ぢやない。或時其の校長の惡口が土地の新聞に出た、何でも藝妓を孕ましたとか言ふんぢや。すると例の教師が體操の時間に僕等を山に連れて行つて、大きな松の樹の下に圓陣を作らしてなあ、何だか樣子が違ふ哩《わい》と思つとると、平生とはまるで別人のやうな能辯で以つて、慷慨激越な演説をおつ始めたんぢや。君達四年級は――其の時四年級ぢやつた――此の學校の正氣《せいき》の中心ぢやから、現代教育界の腐敗を廓清する爲にストライキをやれえちふんぢや。』
『やつたんか?』
『やつた。さうして一箇月の停學ぢや。體操の教師は免職よ。――其奴がよ、何處か思ひ出して見ると高橋に肖《に》とるんぢや。』
『すると何か、彼の高橋も何か大望を抱いてゐると言ふのか?』
『敢てさ
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