あるな。第一まあ彼《あ》の面《つら》を見い。ぽかんとして人の話を聞いとるが、却々《なか/\》油斷ならん人相があるんぢや。』
斯う言つたのは劍持といふ男だつた。皆は聲を合はせて笑つたが、心々に自分の目に映つてゐる高橋の風采を思ひ浮かべてみた。中脊の、日本人にしては色の黒い、少しの優しみもないほどに角ばつた顏で、濃い頬髯を剃つた痕が何時でも青かつた。そして其の眼が――私は第一に其の眼を思ひ出したので――小い、鋭い眼だつた。そして言つた。
『一癖はあるね、確かに。』
然し、それは言ふまでもなく眞《ほん》の其の時の思ひ附きだつた。
劍持はしたり顏になつて、『僕はな、以前から高橋を注意人物にしとつたんぢや。先づ言ふとな、彼の男には二つの取柄がある。阿諛《おべつか》を使はんのが一つぢや。却々《なか/\》頑としたところがある。そいから、我々新聞記者の通弊たる自己廣告をせん事《こつ》ちや。高橋のべちやくちや喋りをるのは聞いたことがないぢやらう? ところがぢや、僕の經驗に據ると、彼《あ》あした外觀の人間にや二種類ある。第一は、あれつきりの奴ぢや。顏ばかり偉さうでも、中味のない奴ぢや。自己廣告をせな
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