可笑しいのか? さうか。君等も行つてたのか? 龜山君も?』
『僕は行かんよ。安井君が行つたんだよ。』
『道理で?……安井も大分近頃話せるやうになつたなあ。』さう言つて無遠慮に安井の顏を見た。
 安井は對手の平氣なのに少し照れ[#「照れ」に傍点]た樣子で、『戯談ぢや無い。僕はまだ君のやうに、彼處へ行つて大口開いて笑へやしないよ。』
『高橋君。』私は言つた。『君こそ社を休んで活動寫眞へ行くなんて、近頃大分話せるやうになつたぢやないか?』
 高橋は私の顏に目を移して、その子供のやうな聲を立てゝ笑つた。
『そんな風に書くから社の新聞は賣れるんだよ。君等は實に奇拔な觀察をするなあ。』
『だつてさうぢやないか?』私も笑つた。
『そんなら活動寫眞と、君が社を休んだ理由と何れだけ關係があるんだ?』
『莫迦な事を言ふなあ! 社を休んだのは少し用があつて休んだんだよ。實は四、五日休んで一つ爲事《しごと》しようかと思つたんだよ。それが出來なかつたから、ぶら/\夕方から出懸けて行つたまでさ。』
『何んな爲事だい?』
『爲事か? なあに、何うせ下らんこつたがね。』
『ははは、活動寫眞よりもか?』
 一寸間を置い
前へ 次へ
全77ページ中70ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング