のか。
A 長生はする。昔から人生五十というが、それでも八十位まで生きる人は沢山ある。それと同じ程度の長生はする。しかし死ぬ。
B 何日になったら八十になるだろう。
A 日本の国語が統一される時さ。
B もう大分統一されかかっているぜ。小説はみんな時代語になった。小学校の教科書と詩も半分はなって来た。新聞にだって三分の一は時代語で書いてある。先を越してローマ字を使う人さえある。
A それだけ混乱していたら沢山じゃないか。
B うむ。そうすっとまだまだか。
A まだまだ。日本は今三分の一まで来たところだよ。何もかも三分の一だ。所謂《いわゆる》古い言葉と今の口語と比べてみても解る。正確に違って来たのは、「なり」「なりけり」と「だ」「である」だけだ。それもまだまだ文章の上では併用されている。音文字《おんもじ》が採用されて、それで現すに不便な言葉がみんな淘汰《とうた》される時が来なくちゃ歌は死なない。
B 気長い事を言うなあ。君は元来|性急《せっかち》な男だったがなあ。
A あまり性急だったお蔭《かげ》で気長になったのだ。
B 悟ったね。
A 絶望したのだ。
B しかしとにかく今の我々の言葉が
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