を愛するから歌を作る。おれ自身が何よりも可愛いから歌を作る。(間)しかしその歌も滅亡する。理窟からでなく内部から滅亡する。しかしそれはまだまだ早く滅亡すれば可いと思うがまだまだだ。(間)日本はまだ三分の一だ。
B いのち[#「いのち」に傍点]を愛するってのは可いね。君は君のいのち[#「いのち」に傍点]を愛して歌を作り、おれはおれのいのち[#「いのち」に傍点]を愛してうまい物を食ってあるく。似たね。
A (間)おれはしかし、本当のところはおれに歌なんか作らせたくない。
B どういう意味だ。君はやっぱり歌人だよ。歌人だって可いじゃないか。しっかりやるさ。
A おれはおれに歌を作らせるよりも、もっと深くおれを愛している。
B 解らんな。
A 解らんかな。(間)しかしこれは言葉でいうと極くつまらんことになる。
B 歌のような小さいものに全生命を託することが出来ないというのか。
A おれは初めから歌に全生命を託そうと思ったことなんかない。(間)何にだって全生命を託することが出来るもんか。(間)おれはおれを愛してはいるが、そのおれ自身だってあまり信用してはいない。
B (やや突然に)おい、飯食いに
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