を愛するから歌を作る。おれ自身が何よりも可愛いから歌を作る。(間)しかしその歌も滅亡する。理窟からでなく内部から滅亡する。しかしそれはまだまだ早く滅亡すれば可いと思うがまだまだだ。(間)日本はまだ三分の一だ。
B いのち[#「いのち」に傍点]を愛するってのは可いね。君は君のいのち[#「いのち」に傍点]を愛して歌を作り、おれはおれのいのち[#「いのち」に傍点]を愛してうまい物を食ってあるく。似たね。
A (間)おれはしかし、本当のところはおれに歌なんか作らせたくない。
B どういう意味だ。君はやっぱり歌人だよ。歌人だって可いじゃないか。しっかりやるさ。
A おれはおれに歌を作らせるよりも、もっと深くおれを愛している。
B 解らんな。
A 解らんかな。(間)しかしこれは言葉でいうと極くつまらんことになる。
B 歌のような小さいものに全生命を託することが出来ないというのか。
A おれは初めから歌に全生命を託そうと思ったことなんかない。(間)何にだって全生命を託することが出来るもんか。(間)おれはおれを愛してはいるが、そのおれ自身だってあまり信用してはいない。
B (やや突然に)おい、飯食いに行かんか。(間、独語するように)おれも腹のへった時はそんな気持のすることがあるなあ。
[#ここで字下げ終わり]
底本:「石川啄木集(下)」新潮文庫、新潮社
1950(昭和25)年7月15日発行
1970(昭和45)年6月15日25刷改版
1991(平成3)年3月5日48刷
底本の親本:「啄木全集」筑摩書房
1967(昭和42)年〜1968(昭和43)年
入力:番 裕子
校正:鈴木厚司
2004年8月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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