い》るるてふ

わがために
なやめる魂《たま》をしづめよと
讃美歌うたふ人ありしかな

あはれかの男のごときたましひよ
今は何処《いづこ》に
何を思ふや

わが庭の白き躑躅《つつじ》を
薄月《うすづき》の夜《よ》に
折《を》りゆきしことな忘れそ

わが村に
初めてイエス・クリストの道を説《と》きたる
若き女かな

霧ふかき好摩《かうま》の原《はら》の
停車場の
朝の虫こそすずろなりけれ

汽車の窓
はるかに北にふるさとの山見え来《く》れば
襟《えり》を正《ただ》すも

ふるさとの土をわが踏めば
何がなしに足|軽《かろ》くなり
心|重《おも》れり

ふるさとに入《い》りて先《ま》づ心|傷《いた》むかな
道広くなり
橋もあたらし

見もしらぬ女教師《をんなけうし》が
そのかみの
わが学舎《まなびや》の窓に立てるかな

かの家《いへ》のかの窓にこそ
春の夜《よ》を
秀子《ひでこ》とともに蛙《かはづ》聴《き》きけれ

そのかみの神童《しんどう》の名の
かなしさよ
ふるさとに来て泣くはそのこと

ふるさとの停車場路《ていしやばみち》の
川ばたの
胡桃《くるみ》の下に小石|拾《ひろ》へり

ふるさ
前へ 次へ
全48ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング