しらむ
わかれをれば妹《いもと》いとしも
赤き緒《を》の
下駄《げた》など欲《ほ》しとわめく子なりし
二日《ふつか》前に山の絵《ゑ》見しが
今朝《けさ》になりて
にはかに恋しふるさとの山
飴売《あめうり》のチャルメラ聴《き》けば
うしなひし
をさなき心ひろへるごとし
このごろは
母も時時《ときどき》ふるさとのことを言ひ出《い》づ
秋に入《い》れるなり
それとなく
郷里《くに》のことなど語り出《い》でて
秋の夜《よ》に焼く餅《もち》のにほひかな
かにかくに渋民村《しぶたみむら》は恋しかり
おもひでの山
おもひでの川
田も畑《はた》も売りて酒のみ
ほろびゆくふるさと人《びと》に
心寄する日
あはれかの我の教へし
子等《こら》もまた
やがてふるさとを棄《す》てて出《い》づるらむ
ふるさとを出《い》で来《き》し子等の
相会《あいあ》ひて
よろこぶにまさるかなしみはなし
石をもて追はるるごとく
ふるさとを出《い》でしかなしみ
消ゆる時なし
やはらかに柳あをめる
北上《きたかみ》の岸辺《きしべ》目に見ゆ
泣けとごとくに
ふるさとの
村医《そんい》の妻のつつましき櫛巻《くしま
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