服《ふく》着《き》て家《いへ》出《い》づる
我にてありしか
今は亡き姉の恋人のおとうとと
なかよくせしを
かなしと思ふ
夏休み果《は》ててそのまま
かへり来《こ》ぬ
若き英語の教師もありき
ストライキ思ひ出《い》でても
今は早《は》や吾が血|躍《をど》らず
ひそかに淋《さび》し
盛岡《もりをか》の中学校の
露台《バルコン》の
欄干《てすり》に最一度《もいちど》我を倚《よ》らしめ
神有りと言ひ張る友を
説《と》きふせし
かの路傍《みちばた》の栗《くり》の樹《き》の下《もと》
西風に
内丸大路《うちまるおほぢ》の桜の葉
かさこそ散るを踏《ふ》みてあそびき
そのかみの愛読の書《しよ》よ
大方《おほかた》は
今は流行《はや》らずなりにけるかな
石ひとつ
坂をくだるがごとくにも
我けふの日に到り着きたる
愁《うれ》ひある少年《せうねん》の眼に羨《うらや》みき
小鳥の飛ぶを
飛びてうたふを
解剖《ふわけ》せし
蚯蚓《みみず》のいのちもかなしかり
かの校庭の木柵《もくさく》の下《もと》
かぎりなき知識の慾《よく》に燃ゆる眼を
姉は傷《いた》みき
人恋ふるかと
蘇峯《そほう》の
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