旨の如何に拘らず、實際彼等にとつては思ひがけざる有力の援軍を得たやうに感じられたに違ひない。さうして又、一言一句の末にまで容赦なき拘束を受けて、何事に限らず、その思ふ所をそのままに言ふことを許されない境遇にゐた彼等は、翁の大膽なる論文とその大膽を敢てし得る勢力とに對して、限りなき羨望の情を起さざるを得なかつたに違ひない。「而して吾人が特に本論に於て、感嘆崇敬措く能はざる所の者は、彼が戰時に於ける一般社會の心的及び物的情状を觀察評論して、露國一億三千萬人、日本四千五百萬人の、曾て言ふこと能はざる所を直言し、決して寫す能はざる所を直寫して寸毫の忌憚する所なきに在り。」これ實に彼等我が日本に於ける不幸なる人道擁護者の眞情であつた。
 然しながら彼等は社會主義者であつた。さうして又明白に社會主義者たる意識をもつてゐた。故にかの記者は、翁の説く所の戰爭の起因及びその救治の方法の、あまりに單純に、あまりに正直に、さうしてあまりに無計畫なるを見ては、「單に如此《かくのごと》きに過ぎずとせば、吾人豈失望せざるを得んや。何となれば、是れ恰も『如何にして富むべきや』てふ問題に對して、『金を得るに在り』と答
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