うかすると自分の持味で他の味をかき乱そうとするからだ。それに較べると、山椒の匂は刺激はあるが、苦味がないだけに、外のものとの折れ合も悪くはない。
筍といういたずらものがある。春になると、土鼠のように、土のなかから産毛《うぶげ》だらけの頭を持出して来る奴だが、このいたずらもののなかには、えぐい味のがあって、そんなのはどうかすると、食べた人に世の中を味気なく思わせるものだ。また小芋という頭の円い小坊主がいる。この小坊主にもえぐいのがあって、これはまた食べた人を怒りっぽくするものだが、こんな場合に木の芽がつまに添えてあると、私たちはそれを噛んで、こうした小さな悪党達の悪戯《いたずら》から、やっと逃げ出すことが出来る。
3
イギリスのある詩人がいった。――
「万人の鼻に嗅ぎつけられる匂が二つある。一つは燃える炭火の匂。今一つは溶ける脂肪の匂。前のは料理を仕過ぎた匂で、後のは料理を仕足りない匂だ。」
と。私は今一つ、木の芽や、またそれと同じような働きをするものをこれに附け加えて、料理の風味を添える匂としたいと思う。
[#改ページ]
物の味
1
「どんな芸事
前へ
次へ
全242ページ中71ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
薄田 泣菫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング