を用意しなければならない。それが出来ると、彼等は列をつくって野道に出かける。そして先達がこれと思う草を摘み、それに味噌をつけて食べると、後について往く人達は、順々にそれに倣って同じことをする。どんなことがあっても、それを嫌がってはならない約束なのだ。春の雑草でも食べようという人達は、牛のように無頓着で、牛のように従順でなければならないことは、彼等自身よく知っているはずだった。
 一、二度違った草を噛むと、次の人が代って先達になることになっているが、こうして幾度か繰返しているうちには、それと知らないで、毒草を口にすることも少くない。そんな場合には、皆の唇は紫色に腫れあがり、胸先がちくちく痛むようなことがないでもなかったが、仮にも仲間を組んで、悪食《あくじき》の一つもしようという輩は、そんなことには一向驚かなかった。
 こんな遊びをした仲間で、私の知っている人が一人あるが、その人はいっていた。
「遊びとしてはちょっと変なものですが、そんなことをやったおかげで、大分物知りになりました。私はその後大抵の草は一目見て、それが食べられるか、どうかということが分るようになりました。」
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