身軽さで、枝から枝へととんぼがえりを試みている。その拍子に私は不思議なものを見つけた。
小鳥は赤いふんどしを締めていた。その尻っぺたにある赤いさし毛は、私をしてそんなことを思わせた。
「何だ。漁師の小せがれのように、赤いまわしなんか締めてさ……」
私は思わず声を出して笑った。小鳥は臆面もなくまだとんぼがえりを続けている。
見ているうちに、いつのまにか私の心もとんぼがえりをしていた。
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桜鯛
1
春はどこから来る。
春は若草の萌えた野道から来るともいい、また都大路の女の着物の色から来るともいうが、津軽海峡をへだてた北海道の平野に、久しく農人の生活を送って来た人の話によると、あちらの春は、野からも山からも来ない。言葉どおりに天そのものから下りて来る。それも一歩ごとにその足跡から花がほほ笑むという、素足の美しい女神ではなく、雄々しい行進曲に合せて、馬を躍らせて来る男性の神様である。強い光に満ちあふれた大空から、黄金の鎧をきらめかせ、ラッパの音高く下りて来るのが、あの雪国の春だそうだ。
それとは違って、私の知っている春は、広い野原からも来たが、そ
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