ようにいたせ。」
「さあ、貯えると申しましたところで、あんなに沢山な水樽では……」
家来は当惑したようにいった。
「そんなに沢山持って参ったか。」
殿は物好きそうに眼を光らせた。
「はい、お城前はその水樽で身動きが出来ぬほどになっております。まだその上に次から次へと荷車が詰めかけて参りまして……」
家来は城のなかはいうまでもないこと、紀州侯の領地という領地は、すっかり水樽で埋ってしまうかのように、気味悪さに肩を顫わせた。
「そうか。河内屋めがまたいたずらしおったな。」
紀州侯はからからと声を立てて笑った。
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仙人と石
支那の唐代に、張果老という仙人がありました。恒州の中条山というところに棲んでいて、いつも旅をするときには、驢馬にまたがって一日に数万里の道程《みちのり》を往ったといいます。旅づかれで家に帰って休もうとでもする場合には、驢馬の首や脚をぽきぽきと折り曲げて畳み、便利な小型《こがた》に形をかえて持ち運んだそうです。そんなおりに、思いがけなく川に出水《でみず》があって、徒渉《かちわた》りがしにくいと、この仙人は手にさげた折畳み式の馬に水を吹きかけ
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