ェ、しかし何となく寂しそうだった。
 心ざまの真直な経広は、茶器の愛に溺れきっていられる主上を諫めようとして、向う見ずにもその前にまず肝腎の茶器を壊してしまったのだ。

     2

 伊達政宗があるとき家に伝えた名物茶碗を取出していたことがあった。
 太閤秀吉が自分の好みから、また政略上の方便から煽り立てた茶の湯の流行は、激情と反抗心との持主である奥州の荒くれ男をも捉えて、利休の門に弟子入をさせ、時おりは為《しよ》う事なさの退屈しのぎから、茶器弄りをさえさせるようになったのだった。
 茶碗は天目だった。紺青色の釉《くすり》のなかに宝玉のような九曜星の美しい花紋が茶碗の肌一面に光っていた。政宗は持前の片眼に磨りつけるようにして、この窯変の不思議を貪り眺めていたが、ついうっとりとなったまま、危く茶碗を掌面《てのひら》より取り落そうとした。
 政宗ははっとなって覚えず胆を潰した。
「金二千両もしたものじゃ。壊してなるものか。」
 こんな考えが電光のように頭のなかを走った。仕合せと茶碗は膝の上で巧く両手の掌面《てのひら》に抱きとめられていた。政宗は冷汗をかいた。胸には高く動悸が鳴っている…
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