轤ィ許しが出ると、経広はいそいそと立ち上って南向きの勾欄に近づいて往った。ちょうど秋の曇り日の午過ぎだったので、御殿の中は経広の老眼にはあまりに薄暗かった。彼は明りを求めて勾欄の上にのしかかるようにして茶碗を眺めた。いかにも感に堪えたように幾度か掌面《てのひら》にひねくり廻しているうちに、どうしたはずみにか、つい御器《おうつわ》を取り落とすような粗忽をしでかした。茶碗は切石の上に落ちて、粉々に砕けてしまった。
主上はさっと顔色を変えられたらしかった。座に帰って来た経広には、悪びれた気色も見えなかった。
「過失とは申しながら、御秘蔵の名器を毀ちました罪は重々恐れ入ります。しかし、よくよく考えまするに、名器とは言い条、これまで数多の人の手にかかりたるやも知れざる品、むかし宋の徽宗皇帝は秘蔵の名硯を米元章に御貸与えになり、一度臣下の手に触れたものは、また用い難いとあって、そのまま元章にお下げになりましたとやら。さような嫌いのある品を御側近うお置きになりますのはいかがかと存ぜられます。してみれば、唯今の粗忽もかえって怪我の功名かと存じまして……」
この一言を聞かれると、主上の御機嫌は直った
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