る信者の女が、自分の手で織ってよこしたもので、極上等の織物だったからな。だが、この時候に上衣なしに外を出歩かねばならないなんて……」
 キリストはそう思うと、忌々しくて溜りませんでした。彼は眼を上げて柳の並木を見ました。柳の木はこの若い救世主をなぶるように、長い下枝をゆらゆらと揺り動かせました。
「ひとの物を持逃げするなんて。そんな木は一本残らず消えてなくなればいい。」
 キリストはうっかり口を滑らしました。すると、その瞬間そこらの柳の並木は、急に葉も、枝も、萎れかえってすっかり立枯となってしまいました。
「おう、柳の木が枯れてしまった。――可憫そうなことをしたな。だが、ほんとうのことをいうと、あの木よりも私の方が可憫そうなんだ。うっかり口もきけないという仕末なのだからな。」
 キリストは以前西班牙の山の中で羊飼を梟にした失敗《しくじり》を思い出して、自分が不用意に洩した言葉がそのまま実現せられてゆくのに驚きました。自分がつぶやくように言った言葉を、すぐにその仕事の一つに取入れる神の慈愛に驚くよりも、その神を動かすあるものが自分の内に隠れているのに驚きました。そしてまたしても神の子に
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