アとは、うちで待っているその妻にとっては堪えがたい苦痛に相違ない。
そういうだらしのない男に連れ添った米国婦人の一人が、良人のそんな癖を治そうとして、いいことを思いついた。良人の穿き古した靴が破けかかって、別なのを新調しなければならないのを見てとった妻は、
「これまでのあなたの靴はあまり大き過ぎて、まるでお百姓さんのように不恰好でしたわ。こん度お誂えになるのは、も少し小ぶりになさいよ。きっと意気でいいから。」
といって、わざと文《サイズ》の小さいのを靴屋に註文させたものだ。
このもくろみは確かに成功した。一日外で文《サイズ》の小さな靴を穿かされている良人は、足の窮屈なのにたまりかねて、勤めがすむが早いか、大急ぎで家に帰って来た。そして窮屈な靴をぬいで、スリッパに穿きかえるのを何よりも楽しみにした。
こんな日が重なるにつれて、良人の悪い癖はいつのまにか治っていたそうだ。
女の抜目のない利用法にかかったら、どんな男でも羅紗の小片《こぎれ》と同じように、ただ一つの材料に過ぎない。女はそれが手提袋を縫うのに寸が足りないと知ったら、代りに人形の着物を思いつこうというものだ。――滅多にあ
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