の純な気質が光つてゐました。
悪意のあつた新聞記事は、皮肉にも平尾氏の身の上に好い結果をもたらしました。平尾氏の好意を極度に利用して、もつと学生生活をしようとしてゐた女の気ままは、手厳しい新聞記事のために脆《もろ》くも打ち挫《くじ》かれて、結婚より他に残された途はなくなりました。で、二人は結婚しました。
幸福な日は続きました。その幸福のなかで、平尾氏の一つの失敗と見てもいいのは、自分と同じやうにOさんをも文藝の道に引き込まうとしたことでした。世の中には結婚すると同時に、妻の藝術的天分をも封じてしまふ良人がありますが、また平尾氏のやうに妻を強ひて自分の道に引つ張り込まないではゐられない人もあります。馬に乗るのにそれぞれ流儀があるやうに、妻を取り扱ふにも各自の勝手があるものです。
困つたことが起きました。Oさんは自分の書いた短篇小説を、平尾氏の先輩であるK氏に見てもらひました。よせばいいのに、K氏は煽《おだ》て半分に、
「よくできました。貴女には立派な才分があるやうです。少なくとも平尾君よりは巧いですね」
といつて賞《ほ》めたてました。Oさんはすつかりいい気になつて、それ以後いくぶん
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