利休と遠州
薄田泣菫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)肩衝《かたつき》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)前田|玄以《げんい》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]〔昭和2年刊『猫の微笑』〕
−−−−

        一

 むかし、堺衆の一人に某といふ数寄者がありました。その頃の流行にかぶれて、大枚の金子を払つて出入りの道具屋から、雲山といふ肩衝《かたつき》の茶入を手に入れました。太閤様御秘蔵の北野肩衝も、徳川家御自慢の初花肩衝も、よもやこれに見勝るやうなことはあるまいと思ふにつけて、某はその頃の名高い茶博士から、何とか折紙つきの歎賞の言葉を得て、雲山の誉れとしたいものだと思つてゐました。
 機会は来ました。ある日のこと、某は当時の大宗匠千利休を招いて、茶会を催すこととなりました。
 かねて主人の口から、この茶入について幾度ならず吹聴せられてゐた利休は、主人の手から若狭盆に載せられたこの茶入を受け取つてぢつと見入りました。名だたる宗匠の口から歎美の一言を待ち設けた主人の眼は、火の
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