やうに燃えながら、利休の眼を追つて幾度か茶入の肩から置形《おきがた》の上を走りました。
あらゆる物の形を徹《とほ》してその心を見、その心の上に物の調和を味はふことに馴れてゐる利休の眼は、最初にちらとこの肩衝を見た時から、この茶入の持つ心持がどうも気に入らなかつた。しかしできるだけその物の持つてゐる美しい点を見逃すまいとする利休の平素《ふだん》からの心掛けは、隠れた美しさを求めて、幾度か掌面《てのひら》の茶入を見直さしました。肩の張りやうにも難がありました。置形にも批の打ちどころがありました。一口に言へば衒気《げんき》に満ちた作品でした。
利休は何にも言はないで、静かにその肩衝を若狭盆の上に返さうとしました。その折でした。利休が自分に注がれた主人の鋭い眼付きを発見しましたのは。その眼には驕慢《けうまん》と押しつけがましさとが光つてゐました。利休はその一刹那に、主人の表情に茶入の心持を見てとりました。茶入の表情に主人の心持を味はひました。
主人は得意さうに利休の一言を待ち構へてゐました。利休は何にも言ひませんでした。狭い茶室はこの沈黙に息づまるやうに感ぜられました。
湯はしづかに煮
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