中宮寺の春
薄田泣菫
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)眩《まぶ》し
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)老男爵|北畠治房《きたばたけはるふさ》氏
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから3字下げ]
−−
ある歳の一月五日午後二時過ぎのことでした。
私は、その頃まだ達者でゐた法隆寺の老男爵|北畠治房《きたばたけはるふさ》氏と一緒に連れ立つて、名高い法隆寺の夢殿のなかから外へ出てきました。
山国の一月には珍しいほどあたたかい日で、薄暗い堂のなかから出てきた眼には、眩《まぶ》し過ぎるほど太陽は明るく照つてゐました。石段の下には見物客らしい、立派な外套を被《はお》つた四十がらみの紳士がたつた一人立つてゐて、八角造りのこの美しい円堂に見とれてゐたらしく見えました。
北畠老人は、ちよつと立ちどまつてその紳士に呼びかけました。
「おい、お前どこの奴ぢや」
横柄な言葉つきに、紳士はむつとして振り返つたらしいが、すぐ目の前に衝つ立つた老人の、長い白髭を胸まで垂れた、そして人を威圧するやうな眼付きを見ると、何と思
次へ
全7ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
薄田 泣菫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング