中宮寺の春
薄田泣菫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)眩《まぶ》し

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)老男爵|北畠治房《きたばたけはるふさ》氏

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(例)[#ここから3字下げ]
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 ある歳の一月五日午後二時過ぎのことでした。
 私は、その頃まだ達者でゐた法隆寺の老男爵|北畠治房《きたばたけはるふさ》氏と一緒に連れ立つて、名高い法隆寺の夢殿のなかから外へ出てきました。
 山国の一月には珍しいほどあたたかい日で、薄暗い堂のなかから出てきた眼には、眩《まぶ》し過ぎるほど太陽は明るく照つてゐました。石段の下には見物客らしい、立派な外套を被《はお》つた四十がらみの紳士がたつた一人立つてゐて、八角造りのこの美しい円堂に見とれてゐたらしく見えました。
 北畠老人は、ちよつと立ちどまつてその紳士に呼びかけました。
「おい、お前どこの奴ぢや」
 横柄な言葉つきに、紳士はむつとして振り返つたらしいが、すぐ目の前に衝つ立つた老人の、長い白髭を胸まで垂れた、そして人を威圧するやうな眼付きを見ると、何と思
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