青磁の皿
薄田泣菫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)御物《ぎよぶつ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)小杉|榲邨《すぎむら》博士

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)くさ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 故人小杉|榲邨《すぎむら》博士の遺族から売りに出した正倉院の御物《ぎよぶつ》が世間を騒がせてゐるが、同院が東大寺所管時代の取締がいかにぞんざいであつたかを知るものは、かうした御物が小杉博士の遺族から持ち出されたといつて、単にそれだけで博士を疑ふのはまだ早いやうに思はれる。
 むかし鴻池家に名代の青磁の皿が一枚あつた。同家ではこれを広い世間にたつた一つしか無い宝物《ほうもつ》として土蔵にしまひ込んで置いた。そして主人が気が鬱々《くさ/\》すると、それを取り出して見た。凡《すべ》て富豪《かねもち》といふものは、自分の家《うち》に転がつてゐる塵《ちり》つ葉《ぱ》一つでも他家《よそ》には無いものだと思ふと、それで大抵の病気は癒《なほ》るものなのだ。
 ある時鴻池の主人が好者《すきしや》
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