の友達二三人と一緒に生玉《いくたま》へ花見に出掛けた事があつた。一|献《こん》掬《く》まうといふ事になつて、皆はそこにある料理屋に入つた。
亭主は予々《かね/″\》贔屓《ひいき》になつてゐる鴻池の主人だといふので、料理から器まで凝《こ》つたものを並べた。そのなかの一つに例の秘蔵の宝物と同じ青磁の皿に、一寸した摘《つま》み肴《さかな》が盛られたのがあつた。
鴻池の主人は吃驚《びつくり》して皿を取り上げて見た。擬《まが》ふ方《かた》もない立派な青磁である。側《そば》にゐる誰彼は幾らか冷かし気味に、
「ほほう、結構な皿や、亭主、お前とこはほんまに偉いもんやな。鴻池家で宝のやうに大事がつとる物を突出《つきだ》しに使ふのやよつてな。」
と賞めあげたものだ。
鴻池の主人は、皿を掌面《てのひら》に載せた儘|凝《じつ》と考へてゐたが、暫くすると亭主を呼んで、この皿を譲つてはくれまいかと畳の上に小判を三十枚並べた。亭主は吸ひつけられたやうに小判の顔を見てゐたが、暫くすると忘れてゐたやうに慌てて承知の旨を答へて、小判を懐中《ふところ》に捻《ね》ぢ込んだ。
鴻池の主人はそれを見ると、掌面の皿をいきな
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