西大寺の伎藝天女
薄田泣菫
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)煤塗《すすまみ》れ
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「弗+色」、第3水準1−90−60]《むく》れて
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私は西大寺をたづねて、一わたり愛染堂の寶物を見終つた。
「寶物はもうこれでお終ひどす。」
と、ぶつきら棒に言ひすてたまま、年つ喰ひの、ちんちくりんな西大寺の小僧は、先へ立つてさつと廊下へ出掛けて行つたが、つとまた後がへりをして、
「あ、忘れとりました。此處におゐでやすのが、伎藝天女さんどす。」
薄闇い片隅に向き直つて、小生意氣に大人のやうにぐつと顎をしやくつて見せる。
それは佛像だの、位牌だの、ごたくさと置き竝べたなかに、煤塗《すすまみ》れになつたちつぽけな御厨子で蝶番ひの脱れかかつた隙間から覗いてみると、何やら得態の分らぬ佛體がつくねんと立つてゐる。屈み腰になつてじつと見入らうとするのを、突立つたままもどかしさうに見てゐた小僧は、さすがに氣の毒になつたかして、
「あ、
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