山雀
薄田泣菫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)雛《ひな》が

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二歩三歩|後退《あとじさ》りを

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]〔大正15[#「15」は縦中横]年刊『太陽は草の香がする』〕
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        一

 私の近くにアメリカ帰りの老紳士が住んでをります。その人が今年の春六甲山へ登つて、その帰りにあたりの松林で小鳥の巣を見つけました。巣にはやつと羽が生えかけたばかしの雛《ひな》が四羽をりました。雛は老紳士を見ると、口を一ぱいに開けて、ちいちいと鳴きました。
「可愛い奴だな。俺の顔を見ると、あんなにものを欲しがつてゐるよ」
 老紳士は何か持ち合せはないかしらと袂をさぐつてみましたが、あいにく巻煙草の箱しか見つかりませんでした。老紳士は大の煙草好きでしたが、小鳥であり、おまけに未成年者であるこの相手に、煙草をすすめるわけにもゆきませんので、もどかしさの思ひをしながらも、黙つて見てをりました。
「可愛い奴だ。何鳥かしら」老紳士は覗き込むやう
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