にして雛の毛をあらためました。「山雀《やまがら》によく似てゐるな。山雀かい、お前たちは」
巣の中の小鳥は、それを聞くと、一斉に頭をもちあげて、ちいちいと鳴きました。
「やつぱし山雀だ」
さう思ふと同時に、その山雀にいろんな藝を仕込む面白さが老紳士の心を捉へました。親鳥が居合せないのを仕合せに、巣ぐるみ雛を懐中《ふところ》にねぢ込んで、逃げるやうにして山を下りてきました。そして道々、
「もうこんなに大きくなつたんだから、餌付《ゑづ》けさへうまくやつたら、きつと育つだらうて」
と言訳らしく、独りごとをいひました。
小鳥は四羽のうち、三羽までは死にましたが、残つた一羽は餌づけもうまくいつて、無事に育ちました。だが、困つたことには、山雀だと思つて育てた小鳥が、だんだん大きくなるにつれて、毛いろから恰好までそつくり頬白《ほほじろ》に変つてきました。老紳士はそれを見ながら、毎日のやうに溜息をついてゐます。
「頬白だつていいぢやありませんか。山雀とは比べものにならない好い声で、
一筆啓上仕りそろ……
と、鳴きますからね」
といつて、慰めますと、老紳士は浮かぬ顔をして、
「いくら好い声で鳴いた
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