いつて居合はせた小姓の懐中から、金魚を釣り出さうといふ自慢の芸に取りかかつた。
 小姓は気味を悪がつて、小さな襟を掻き合はせたりした。手品師はさつと釣針を投げて、勢よく小姓の襟先を掠めて、それを引き上げたが、釣針の先には何もかかつて居なかつた。
 手品師は慌てて、二度三度同じ事を繰り返したが、その都度手先が段々そそつかしくなるばかりで、金魚は少しも釣れなかつた。そして終ひには金魚の代りに小姓の前髪を釣り上げた。小姓は鮒のやうに泳ぐ手附をした。それを見て一座は声を揚げて笑つた。
 手品師は真赤になつて畳の上に這ひつくばつた。額からは油汗がたらたらと流れた。
「これまで一度だつて仕損じた事のない手品なのでござりますが、今日はまた散々の不首尾で、お詫びの申し上げやうもござりませぬ。」手品師は子供の手のひらでべそをかく蝉のやうな声を出した。「私めの考へまするには、このお屋敷には人並秀れた偉い御器量のお方が居《あ》らせられますので、それでどうも手品が段取よく運ばないかのやうに存じられまする。」
 備前少将はそれを聞くと、にやりと軽く笑つた。後の方では蕃山と左源太とが肚《はら》のなかで頷いたらしか
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