、子供たちの前に立ちはだかりました。そして前とは打つて変つて丁寧に、
「そんなだしたら、奥さん、わてに始末さしてもらひまつさ。もともとわての粗相から起きたことだすよつてな」
「お前さんにはお頼みしませんよ」婦人の顔はまた険しくなりました。「お前さんは、自分のした粗相をあやまらうとしなかつたぢやありませんか」
「あやまりまんがな。そない言はんかてあやまりまんがな」爺さんは捩《ね》ぢ曲げるやうにして強ひて笑顔を作りました。そして手巾《ハンケナ》の結び目から小猫の死骸を覗き込みながら言ひました。「えらい済まなんだなあ、堪忍しとくれや。これでよろしおまつしやろ、奥さん」
 爺さんの手は、掻き払ふやうにして婦人の指さきから銀貨をもぎとりました。そして小猫の包を受け取るなり、それをがらくたの荷物の上に投げ込んで、梶棒を取るが早いか、がたびしと荷車を曳き出しました。
 私は後を追ふともなしに車についてゆきました。路が横堀に出ると、爺さんは後に手を伸ばして手巾《ハンケチ》の包を取り上げるなり、堀の水を目がけてぽいとそれを投げおろしました。
 白い猫の包は、碧《あを》い堀割の水に浮きつ沈みつ、しばらく流
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