、しみじみと時代の嘆きといふものが味はへる。
 ニコライ親爺といつたら、どうかすると亡くなつた女房を思ひ出して、樂しかつた戀の思出に耽つてゐたといふが、あの喜光寺にはどんな夢があつたらうか。五月末の日は、じわじわと煎るやうに照りつける。その下でめまぐるしさうに、肩を露出《むきだ》しに乾ききつた古寺の容子は、まるで長い生活の重荷にへとへとに倦み疲れて、何處にでも腰を下すが早いか、もうこくりこくりと居睡りを爲始める耄碌爺の心持そつくりだ…………



底本:「現代日本紀行文学全集 西日本編」ほるぷ出版
   1976(昭和51)年8月1日初版発行
底本の親本:「薄田泣菫全集 第八巻」創元社
   1939(昭和14)年刊行
初出:「新小説」
   1908(明治41)年10月
入力:林 幸雄
校正:門田裕志
2003年3月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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