贋物
薄田泣菫
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)唯《たつた》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)村井|吉兵衛《きちべゑ》
−−
村井|吉兵衛《きちべゑ》が伊達家の入札で幾万円とかの骨董物を買込んだといふ噂を伝へ聞いた男が、
「幾ら名器だつて何万円は高過ぎよう。それにそんな物を唯《たつた》一つ買つたところで、他《ほか》の持合せと調和が出来なからうぢやないか。」
といふと、吉兵衛は女と金の事しか考へた事のない頭を、勿体ぶつて一寸|掉《ふ》つてみせた。そして一言一句が五十銭づつの値段でもするやうに、出《だ》し惜《をし》みをするらしく緩《ゆつく》りした調子で、
「なに高い事は無いさ、幾万円払つた骨董が宅《うち》の土蔵にしまひ込んであるとなると、外《ほか》に沢山《どつさり》あるがらくた道具までが、そのお蔭で万更《まんざら》な物ぢや無からうといふ[#「いふ」は底本では「いう」]ので、自然|値《ね》が出て来ようといふものぢやないか。」
と言つて笑つたといふ談話《はなし》だ。
今の富豪《かねもち》が高い金を惜しまないで骨董品を集めるなかには、かう
次へ
全3ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
薄田 泣菫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング