北の方《かた》へ行こう」と拱《こまぬ》いたる手を振りほどいて、六尺二寸の躯《からだ》をゆらりと起す。
「行くか?」とはギニヴィアの半ば疑える言葉である。疑える中には、今更ながら別れの惜まるる心地さえほのめいている。
「行く」といい放って、つかつかと戸口にかかる幕を半ば掲げたが、やがてするりと踵《くびす》を回《めぐ》らして、女の前に、白き手を執りて、発熱かと怪しまるるほどのあつき唇を、冷やかに柔らかき甲の上につけた。暁の露しげき百合《ゆり》の花弁《はなびら》をひたふるに吸える心地である。ランスロットは後《あと》をも見ずして石階を馳け降りる。
 やがて三たび馬の嘶《いなな》く音《ね》がして中庭の石の上に堅き蹄が鳴るとき、ギニヴィアは高殿《たかどの》を下りて、騎士の出づべき門の真上なる窓に倚《よ》りて、かの人の出《いづ》るを遅しと待つ。黒き馬の鼻面《はなづら》が下に見ゆるとき、身を半ば投げだして、行く人のために白き絹の尺ばかりなるを振る。頭に戴ける金冠の、美しき髪を滑りてか、からりと馬の鼻を掠《かす》めて砕くるばかりに石の上に落つる。
 槍《やり》の穂先に冠をかけて、窓近く差し出したる時、ラ
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