ンスロットとギニヴィアの視線がはたと行き合う。「忌まわしき冠よ」と女は受けとりながらいう。「さらば」と男は馬の太腹をける。白き兜《かぶと》と挿毛《さしげ》のさと靡《なび》くあとに、残るは漠々《ばくばく》たる塵《ちり》のみ。

     二 鏡

 ありのままなる浮世を見ず、鏡に写る浮世のみを見るシャロットの女は高き台《うてな》の中に只一人住む。活《い》ける世を鏡の裡《うち》にのみ知る者に、面《おもて》を合わす友のあるべき由なし。
 春恋し、春恋しと囀《さえ》ずる鳥の数々に、耳|側《そばだ》てて木《こ》の葉《は》隠れの翼の色を見んと思えば、窓に向わずして壁に切り込む鏡に向う。鮮《あざ》やかに写る羽の色に日の色さえもそのままである。
 シャロットの野に麦刈る男、麦打つ女の歌にやあらん、谷を渡り水を渡りて、幽《かす》かなる音の高き台に他界の声の如く糸と細りて響く時、シャロットの女は傾けたる耳を掩《おお》うてまた鏡に向う。河のあなたに烟《けぶ》る柳の、果ては空とも野とも覚束《おぼつか》なき間より洩《も》れ出《い》づる悲しき調《しらべ》と思えばなるべし。
 シャロットの路《みち》行く人もまた悉《
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