更という面持《おももち》である。
「罪あるは高きをも辞せざるか」とモードレッドは再び王に向って問う。
 アーサーは我とわが胸を敲《たた》いて「黄金の冠は邪《よこしま》の頭に戴《いただ》かず。天子の衣は悪を隠さず」と壇上に延び上る。肩に括《くく》る緋《ひ》の衣の、裾は開けて、白き裏が雪の如く光る。
「罪あるを許さずと誓わば、君が傍《かたえ》に坐せる女をも許さじ」とモードレッドは臆《おく》する気色もなく、一指を挙げてギニヴィアの眉間《みけん》を指《さ》す。ギニヴィアは屹《き》と立ち上る。
 茫然《ぼうぜん》たるアーサーは雷火に打たれたる唖《おし》の如く、わが前に立てる人――地を抽《ぬ》き出でし巌《いわお》とばかり立てる人――を見守る。口を開けるはギニヴィアである。
「罪ありと我を誣《し》いるか。何をあかしに、何の罪を数えんとはする。詐《いつわ》りは天も照覧あれ」と繊《ほそ》き手を抜け出でよと空高く挙げる。
「罪は一つ。ランスロットに聞け。あかしはあれぞ」と鷹《たか》の眼を後ろに投ぐれば、並びたる十二人は悉く右の手を高く差し上げつつ、「神も知る、罪は逃《のが》れず」と口々にいう。
 ギニヴィ
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