た》なる試合果てて、行けるものは皆|館《やかた》に帰れるを、ランスロットのみは影さえ見えず。帰れかしと念ずる人の便《たよ》りは絶えて、思わぬものの※[#「金+(鹿/れっか)」、第3水準1−93−42]《くつわ》を連ねてカメロットに入るは、見るも益なし。一日には二日を数え、二日には三日を数え、遂《つい》に両手の指を悉《ことごと》く折り尽して十日に至る今日《こんにち》までなお帰るべしとの願《ねがい》を掛けたり。
「遅き人のいずこに繋《つな》がれたる」とアーサーはさまでに心を悩ませる気色《けしき》もなくいう。
高き室《しつ》の正面に、石にて築く段は二級、半ばは厚き毛氈《もうせん》にて蔽《おお》う。段の上なる、大《おおい》なる椅子《いす》に豊かに倚《よ》るがアーサーである。
「繋ぐ日も、繋ぐ月もなきに」とギニヴィアは答うるが如く答えざるが如くもてなす。王を二尺左に離れて、床几《しょうぎ》の上に、纎《ほそ》き指を組み合せて、膝《ひざ》より下は長き裳《もすそ》にかくれて履《くつ》のありかさえ定かならず。
よそよそしくは答えたれ、心はその人の名を聞きてさえ躍《おど》るを。話しの種の思う坪に生《は
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