く。濁世《じょくせ》にはびこる罪障の風は、すきまなく天下を吹いて、十字を織れる経緯《たてよこ》の目にも入ると覚しく、焔のみは※[#「糸+曾」、第3水準1−90−21]《はた》を離れて飛ばんとす。――薄暗き女の部屋は焚《や》け落つるかと怪しまれて明るい。
 恋の糸と誠《まこと》の糸を横縦に梭くぐらせば、手を肩に組み合せて天を仰げるマリヤの姿となる。狂いを経《たて》に怒りを緯《よこ》に、霰《あられ》ふる木枯《こがらし》の夜を織り明せば、荒野の中に白き髯《ひげ》飛ぶリアの面影が出る。恥ずかしき紅《くれない》と恨めしき鉄色をより合せては、逢うて絶えたる人の心を読むべく、温和《おとな》しき黄と思い上がれる紫を交《かわ》る交《がわ》るに畳めば、魔に誘われし乙女《おとめ》の、我《われ》は顔《がお》に高ぶれる態《さま》を写す。長き袂《たもと》に雲の如くにまつわるは人に言えぬ願《ねがい》の糸の乱れなるべし。
 シャロットの女は眼《まなこ》深く額広く、唇さえも女には似で薄からず。夏の日の上《のぼ》りてより、刻を盛る砂時計の九《ここの》たび落ち尽したれば、今ははや午《ひる》過ぎなるべし。窓を射る日の眩《まば
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