て、白き筋の横縦に鏡に浮くとき、その人|末期《まつご》の覚悟せよ。――シャロットの女が幾年月《いくとしつき》の久しき間この鏡に向えるかは知らぬ。朝《あした》に向い夕《ゆうべ》に向い、日に向い月に向いて、厭《あ》くちょう事のあるをさえ忘れたるシャロットの女の眼には、霧立つ事も、露置く事もあらざれば、まして裂けんとする虞《おそれ》ありとは夢にだも知らず。湛然《たんぜん》として音なき秋の水に臨むが如く、瑩朗《えいろう》たる面《おもて》を過ぐる森羅《しんら》の影の、繽紛《ひんぷん》として去るあとは、太古の色なき境《さかい》をまのあたりに現わす。無限上に徹する大空《たいくう》を鋳固めて、打てば音ある五尺の裏《うち》に圧《お》し集めたるを――シャロットの女は夜ごと日ごとに見る。
 夜ごと日ごとに鏡に向える女は、夜ごと日ごとに鏡の傍《そば》に坐りて、夜ごと日ごとの※[#「糸+曾」、第3水準1−90−21]《はた》を織る。ある時は明るき※[#「糸+曾」、第3水準1−90−21]《はた》を織り、ある時は暗き※[#「糸+曾」、第3水準1−90−21]《はた》を織る。
 シャロットの女の投ぐる梭《ひ》の音を
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