》われて、行くわれの果《はて》は知らず。かかる人を賢しといわば、高き台《うてな》に一人を住み古りて、しろかねの白き光りの、表とも裏とも分ちがたきあたりに、幻の世を尺に縮めて、あらん命を土さえ踏まで過すは阿呆《あほう》の極みであろう。わが見るは動く世ならず、動く世を動かぬ物の助《たすけ》にて、よそながら窺《うかが》う世なり。活殺生死《かっさつしょうじ》の乾坤《けんこん》を定裏《じょうり》に拈出《ねんしゅつ》して、五彩の色相を静中に描く世なり。かく観ずればこの女の運命もあながちに嘆くべきにあらぬを、シャロットの女は何に心を躁《さわ》がして窓の外《そと》なる下界を見んとする。
 鏡の長さは五尺に足らぬ。黒鉄《くろがね》の黒きを磨《みが》いて本来の白きに帰すマーリンの術になるとか。魔法に名を得し彼のいう。――鏡の表に霧こめて、秋の日の上れども晴れぬ心地なるは不吉の兆なり。曇る鑑《かがみ》の霧を含みて、芙蓉《ふよう》に滴《した》たる音を聴《き》くとき、対《むか》える人の身の上に危うき事あり。※[#「(彡をつらぬいてたてぼう)/石」、第4水準2−82−32]然《けきぜん》と故《ゆえ》なきに響を起し
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